(画像提供:wowkorea)
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韓国軍はクーデターを起こせるのか?

 韓国のムン・ジェイン(文在寅)政権を巡り、しばしば日本のスポーツ紙を始めとした韓国について非専門的な日本のマスコミが騒ぐことがある。韓国軍が米国の支持・黙認の下、「反共(反北・反中)」の国体を守るとの名目・大義名分を掲げてクーデターを起こす可能性のことだ。

 かつて”反米の民族主義”を推進していて、今の文在寅大統領が大統領秘書室長を務めていたノ・ムヒョン(蘆武鉉)政権時(2003年~2008年)にも同様だったと記憶する。”親米”政権、つまり迂回して”親日的”な政権を打ち立てるだろうとの記事を目にすると、果たしてその可能性はあるのだろうか、と確かめたくなる。

 しかし、朝鮮半島(韓半島)の研究をすればするほど、関連の専門家であるほど、もしくは場合によっては素人の日本人や韓国人が韓国社会に詳しく理解するほど、その可能性については否定的なのだ。

 かつて「朝日新聞」記者として韓国に関わり、”コリア関係”の著作もある田中明氏は、パク・ジョンヒ(朴正熙)政権以来の約30年間の軍事政権は、儒教的な「尚文(尚武の対義語)」文化が根強い半島史においては、軍人が政権・実権を掌握する「例外」の時代と説明する。また日本統治下の約35年間も、その例外的な「尚武」文化の時代と解釈される。

 むしろチョン・ドゥファン(全斗煥)11代・12代大統領、故ノ・テウ(盧泰愚)13代大統領などの軍事政権の末期以降の民主化は、「尚文」文化への揺り戻しだと解釈されている。つまり文化的に、韓国人・韓国国民の感情・感覚において、軍事政権は勿論、クーデターは受容し得るものではないと言うのだ。

 更にその後、アジア通貨危機に端を発したIMF事態で、韓国を経済危機に陥れた”戦犯”として評価のイマイチな故キム・ヨンサム(金泳三)14代大統領だが、彼の政権下における軍隊に関する諸改革が、実際的な面においてクーデターを不可能なものにした。

 具体的には
1、政軍関係における法的な「政治」の優位確立、
2、文民統制や軍人の言動への監視の徹底に関する法制度化、
3、ハナ会(朴、全、盧らと同郷出身者の地縁を基に結成された軍隊内の結社・派閥)の解散と構成員への追放・退役処分などの措置、
4、人事・任期を厳格に運用する事で属人的な軍隊内のコネクションや関係発生の根絶、
5、人事考課上の軍人の高学歴化推奨や「公務員化」や「軍事官僚化」推進、
6、「野戦軍人」「戦闘指揮官」への低評価、
等だである。

 数人の韓国軍将校らの知己にこの問題に関して聞くと、特に日本のスポーツ紙を始めとした媒体においてクーデター説が堂々と紙面を飾っていると指摘すると、「話にならない」「論外だ」と言う反応だった。

 また、「個人の将来設計・人生設計において割に合わない」「頑張ってもクーデターを起こし得るような資源・リソースの確保は1980年代以前と違って今は不可能だ」と言う現実的な回答を得ている。正直「国家や国民」の為にならないと言う回答が皆無だったのは残念だが、全員が冗談以外の何物でもないとの反応だった。

 しばしば日本のメディアで目にする「韓国軍クーデター」言説だが、韓国国民の文化や情緒に合わず、軍人がクーデターを起こし得るような環境に無いのだ。そもそも韓国の軍人に与えられている資源・リソースの確保が今は難しく、不可能と言っても過言ではない。

 従ってこのような「韓国軍クーデター」言説は単なる冗談、もしくはクーデターが頻発する未熟な国家・国民だと見下す、そんな日本の対韓観の意識的・無意識的な反映ではないかと危惧してやまない。

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