(画像提供:wowkorea)
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日本政府が1日、元産経新聞編集局編集委員であり、元ソウル支局長の加藤達也氏を、内閣審議官兼内閣情報分析官に起用したことについて、韓国の主要メディアも大きく伝えている。

内閣情報分析官とは、内閣官房の内部組織の内閣情報室に属し、特定の地域や分野に関して、特に高度な分析を行う。

韓国にも大統領直属の情報機関「国家情報院」(いわゆるK-CIA)があり、国家安全保障にかかわる情報などに関する国外の情報や、国内の保安情報を収集するなどの職務を担っている。韓国メディアは内閣情報室が国家情報院に似た組織だと解説。

中央日報は加藤氏が「日本版の国家情報院に起用された」とし、「韓国や北朝鮮などと関連した情報業務を担う可能性が高い」と報じている。

日本の元ジャーナリストの内閣情報分析官への起用を、韓国メディアが大きく報じるのには理由がある。

加藤氏はソウル支局長を務めていた2014年8月、韓国のパク・クネ(朴槿恵)前大統領の名誉を毀損(きそん)したとして在宅起訴され、その後、無罪判決を受けた人物として、韓国内で広く知られているからだ。

2014年4月16日、韓国の大型旅客船セウォル号が、南西部・チンド(珍島)郡のクァンメド(観梅島)沖の海上で転覆・沈没する事故が起きた。船はソウル近郊のインチョン(仁川)市のインチョン港から南部のチェジュド(済州島)へ向かっており、修学旅行中の高校生も300人以上が乗船していた。この「セウォル号事故」は乗員・乗客299人、捜索作業員8人が死亡、5人が行方不明となる大惨事となった。

事故当日、第一報を受けたパク大統領(当時)が7時間にわたって所在不明と報道され、当時の加藤支局長は韓国紙・朝鮮日報などの情報を基に、「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?」と題するコラムを執筆。事故当日、パク大統領が元側近と会っていたとのうわさがあることなどを取り上げた。コラムは2014年8月3日、日本の産経新聞の公式ウェブサイトに掲載された。

韓国大統領府などは、産経新聞に対して記事の削除を要請するも、同社がこれに応じず、パク大統領支持者である保守系の右派団体のリーダーらが、加藤氏を「パク大統領への名誉毀損」で告発。

韓国検察は2014年10月8日、「パク大統領を誹謗(ひぼう)する目的で虚偽事実を広めた」として、加藤氏を在宅起訴した。その後、検察側は2015年10月19日、加藤氏に懲役1年6月を求刑したが、ソウル中央地裁は2015年12月17日、無罪判決を言い渡した。

韓国検察による加藤氏の起訴は、政権の意向に忠実な韓国検察の体質や、政権に都合の悪い情報に刑事責任を問うなど、韓国司法システムが抱える総合的な問題を浮き彫りにした。

加藤氏は著書「なぜ私は韓国に勝てたか」(産経新聞出版)で「大統領に不都合だからといって記事を執筆した記者の刑事責任が問われることなど、真っ当に民主主義を掲げ、言論の自由を保障する国ではあり得ない話です」と批判している。

「セウォル号事故」はパク大統領の政敵ムン・ジェイン(文在寅)氏を支持する革新系勢力などにより「セウォル号『事件』」となり、2016年12月からはパク大統領の「弾劾手続」きが行われ、2017年には革新系左派のムン政権が誕生した。

加藤氏の韓国での受難は政権が変わった現在、「言論統制法案」との批判も上がり韓国で物議を醸している「言論仲裁法改正案」にも通じるところがある。

ムン大統領はパク前大統領が弾劾された当日の2017年3月10日、「セウォル号」犠牲者の追悼施設を訪問し、芳名録に直筆で「申し訳ない。ありがとう」と書き残した。

これはおそらくムン大統領の本能的な本音だったと思われる。文大統領が加藤氏や日本政府に言いたい言葉も、これと同じかもしれない。

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