韓国のユン・ソギョル(尹錫悦)大統領が、歴代の韓国大統領として初めて、出勤時に記者団の質問に答える「ぶら下がり取材」に応じている。大統領室は新型コロナウイルスの感染が再拡大しているとして、今月11日に中断を表明するも、翌12日には再開。以来、再び毎朝、記者たちのぶら下がり取材に対応している。

 日本では、首相などへのぶら下がり取材は一般的だ。岸田文雄首相は、ぶら下がり取材を自身のセールスポイントである「聞く力」を国民にアピールする絶好の機会と捉えている様子で、こうした場を積極的に設けている。「他にないかな」「あと1問ね」などと自ら質問をさばくこともある。今月8日、安倍晋三元首相が参院選の応援演説中に銃撃されたことを受け、遊説先から急きょ東京に戻った岸田首相は、ぶら下がり取材に応じ、言葉を詰まらせながら「民主主義国家の日本の一員として、絶対に許してはならない行為だと感じている。最大限強い言葉で非難する」と怒りをにじませた。

 一方、菅義偉前首相はぶら下がり取材には応じてきたものの、頻度は岸田首相に比べ低く、自身が発言し終えると記者の質問に最後まで答えず立ち去ることも多かった。昨年2月には、新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言の6府県での解除決定に伴い、正式な記者会見を見送る一方、ぶら下がり取材に応じる形で記者団の質問に答えた。しかし、この時の菅氏は苛立っており、記者団に記者会見とぶら下がり取材の違いを問われると「それは皆さんが考えることじゃないですか」と語気を強めた。そして最後には「だいたい皆さん(質問は)出尽くしているんじゃないですか。先ほどから同じような質問ばかりじゃないでしょうか」と言い、その場を立ち去った。

 記者団の首相に対するぶら下がり取材が定着している日本とは対照的に、韓国ではこうした取材に大統領が応じるのは尹氏が初めて。就任以来、出勤時にほぼ毎日ぶら下がり取材に応じ、尹氏のトレードマークとなりつつある。今月7日、大統領室の関係者は聯合ニュースの取材に、ぶら下がり取材について、「新政権の脱権威と意思疎通努力の象徴」として「やめる理由がない」と話した。

 しかし、大統領室は今月11日、「大統領のぶら下がり取材は暫定中断することにした」と発表した。理由について大統領室は「大統領室は事務スペースがとても密集している上に大統領執務室と記者室が分離していない。それだけに感染症の拡散に対応力が弱い点を考慮して決定した」とし、最近、新型コロナの感染が再び拡大していることを受けた措置として理解を求めた。

 中断により、記者団との疎通の機会が減るのではと懸念されたが、翌12日には再開された。この日、大統領執務室に出勤してきた尹氏は「聞くことがあればどうぞ。一つだけ答える」と話し、新型コロナの再拡大に伴う防疫計画に関する質問に応じた。大統領室の関係者は、わずか1日でぶら下がり取材が再開されたことについて、「事前調整は全くなかった」とし、「現場にいる取材陣との意思疎通を重要と考える大統領のスタイルがそのまま反映されたもの」と説明した。

 しかし、ぶら下がり取材の中断が発表された背景には、新型コロナ再拡大とは別の理由があったとの見方も出ている。ぶら下がり取材に関しては、与党「国民の力」の一部からは当初から慎重さを求める声が上がっていた。尹氏が記者との質疑応答で不適切な発言をしたり、人事など敏感な事柄に関する質問に苛立ちをあらわにする場面もあった。保健福祉部(部は省に相当)長官の候補が2人連続で辞退し、人事の不備を指摘された尹大統領が「わが政権ではしっかりとした人を抜擢したと自負しており、前政権とは比較にならないと考える」「前政権で指名された長官の中で立派な人がいただろうか」と不快感を示したこともあった。

 今月11日に世論調査会社のリアルメーターが発表した調査結果では、尹氏の支持率は37%と、同社の調査で就任後初めて40%を割り込んだ。突然、ぶら下がり取材の中断が発表された背景には、ぶら下がり取材でのユン氏のストレートな物言いが、さらなる支持率低下を招きかねないとの懸念もあったのではないかとの見方も出ている。しかし、中断理由がコロナの再拡大を受けての対応と発表されたことから、ネット上では「コロナは1日で解決されたということか」などと皮肉る声も上がった。

 批判も考慮してか、再び記者のぶら下がり取材に応じている尹氏。大統領室高官は今月初め、ぶら下がり取材について「良い伝統として韓国の政治史に残していきたい」と話している。

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