原子力発電所(画像提供:wowkorea)
原子力発電所(画像提供:wowkorea)
韓国は”道徳の国”である。600年前の話だが、1392年に高麗王朝が滅び、朝鮮王朝が成立した時も同じだった。新王朝は民に対する説明は「武力的な優位」ではなく「道徳的な優位」だった。旧王朝は寺院の繁盛で腐敗し民は搾取されていると宣伝され、旧王朝の王は先代王妃と怪僧との不倫によって生まれた”汚れた血筋”との”風評”が広められた。

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 その新王朝の創立者の孫が有名な「世宗大王」である。ソウルのクァンファムン(光化門)広場に銅像として、韓国紙幣の人物として、映画やドラマの主人公として韓国人に尊敬されている偉人だ。最も有名な業績は韓国の文字「ハングル」の発明。1443年に発明されたハングルを真っ先に”社会実験”するため出版された本「龍飛御天歌」もその新王朝の「道徳的な優位」を象徴化するための物だった。新王朝は”人間の欲望”ではなく、”神様の意図”により旧王朝を潰したとのことである。

 その後、朝鮮王朝では政治的な内部対立や諸外国との外交でも「道徳的な優位」をとることが優先視された。内部の熾烈な党争の中、政敵を潰す名分として使われたものも「道徳」であり、1636年、”清”との戦争も日本の豊臣秀吉の朝鮮出兵の時、助けてくれた亡き”明”に対する「道徳」の論争で触発された。

 1990年代、日本統治時代に朝鮮半島での”少女狩り”が左翼運動の前歴を持つ日本人により証言された結果、日本が韓国に「謝罪」した時も同じだった。「我が民族の純潔な少女20万人が日本の欲望のため性奴隷として犠牲になった」との認識がそれである。日本に支配され、独立して50年を迎えた当時、ほぼすべての分野で日本に及ばなかった韓国の”自尊心”は、日本より遥かに優れた「道徳的な優位」で補われる。

 当時の日本はロシア・中国・北朝鮮など共産主義の同盟に対抗するため、韓国・日本・米国の自由民主主義の同盟を保護するため、急いで韓国に謝罪する「実用主義」を選択した。2015年の「慰安婦問題日韓合意」までもそのような流れであったと評価される。

 時代は2000年代を迎え、今に至る。日本の謝罪により韓国は「道徳的な優位」を謳歌してきた。その間、特定分野で初めて日本より突出した成果を出すこともあった。半導体やスマホ界のサムスン、フィギュアスケート界のキム・ヨナ、映画界のポン・ジュノ監督の「パラサイト~半地下の家族」、大衆音楽界の「BTS(防弾少年団)」がその実例である。

 その間、慰安婦運動を政治的に利用する勢力は、度が過ぎる行動を続ける。しかし、日韓に共通する言葉が待っていた。孔子が数千年前から教えてくれた「過猶不及」である。当然な事だが、日本では”慰安婦の真実”を求める”反撃”が始まり、韓国では慰安婦運動を通じて権力を握った勢力の”秘密”が暴かれてしまう。こうして元慰安婦に関する韓国の「道徳的な優位」には影が見えてきた。

 学者の視線で過去の記録を研究し慰安婦問題を考察してきたパク・ユハ教授の著書「帝国の慰安婦」が韓国で法的に裁かれたことも、長く観ればその「道徳的な優位」を守るための”抵抗”であった。

 そして、イ・ヨンフン元ソウル大学教授などの著書「反日種族主義」が出版され、韓国と日本でベストセラーになったことは、その「道徳的な優位」に決定打となった。そして、「ベルリン少女像」の事例のように、日本も過去とは違う。このままなら、1990年代に韓国が獲得した「道徳的な優位」が台無しになる時が来るかもしれない。

 ここ最近、日本国内を騒がしているニュースは、福島原発事故後の汚染水を処理水として海洋に放出すると言うものだろう。”汚染水”であれ、”処理水”であれ、”処理済の水”であれ、体積を圧倒的に減らす方法があればこれほど問題にならない筈だ。しかし、「科学的な安全」ではなく、「心情的な安心」を求める声は根強く、諸外国も同様だと言う口実の方が説得力があると見て結局、海洋放出になりつつあると思われる。

 日本国内ではあまり注目されていないのか、この海洋放出と共に、韓国ではそもそも原子力政策を巡って大論争が起きている。

 まず今の韓国政権は、福島原発事故後、韓国も”脱原発”すべきだと言う政策を公約として、再生エネルギーを中心にした発電体制・電力供給を求める姿勢で一貫して来た。その結果、今回の日本の処理水海洋放出問題が騒がれるほど、韓国の現政権が推進してきた脱原発政策に追い風となる。日本の海洋放出に反対しつつ、自国の「月城原発」を始めとした原発の廃炉を推進しようとしている。

 今のエネルギー技術レベルで原発を捨て、太陽光発電を推進する韓国には既に副作用が見えている。全国の山が中国製の太陽光パネルに埋め尽くされていて、その乱開発や汚染も深刻な状況になりつつある。

 そこで問題となったのが、韓国の”原発推進派”もしくは”維持派”の事故隠蔽や、資料改ざんや不法廃棄等だ。韓国国会でも調査が本格化し、刑事事件に発展せざるを得ない様相だ。保守系の韓国野党の中でも済州道知事等が日本の処理水海洋放出に反対しつつ、司法機関に提訴して阻止もしくは賠償を求めて行くとしている。

 ところが珍しく、韓国の一角ではこの処理水海洋放出に反対なのだろうが、非常にハッキリしない、慎重な発言に終始している。それと言うのも、実は韓国の原発は日本が海洋放出しようとする処理水よりもはるかに高濃度の放射性物質を含んだ処理水・汚染水を国際機関の基準に則って、特に日本海(韓国名:東海)に向けて、海洋放出しているからだ。

 また情報公開はされていないものの、中国・ロシア・北朝鮮も同様の対応を取っていると言われている。万が一、韓国政府が日本の処理(済)水の海洋放出について干渉した場合、脱原発政策以前に、自国内で現在稼働中の原発から生じる汚染水の処理機能の向上が、莫大な費用と共に求められてしまう。

 ただこうした事情を知らぬ振りをして、そうした事実を指摘されても(無視して)、日本の海洋放出は危険で、悪だが、韓国のそれは安全で、問題無いと言う指導者の発言や報道もあり、韓国の政府と政府以外との間の温度差が見られる。

 自国の海洋放出についてもっと注目した上で、日本の海洋放出について論じない限り、2011年の福島原発事故の以降、韓国が謳歌してきたエネルギー源に対する「道徳的な優位」が台無しになるはずだ。孔子が数千年前から教えてくれた「過猶不及」である。
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