韓国時代劇は日本でも人気があります。日本の人たちは朝鮮半島の歴史に詳しくないのですが、それでもなぜ韓国時代劇が受けているのでしょうか。(写真:MBC「トンイ」公式サイトより)
韓国時代劇は日本でも人気があります。日本の人たちは朝鮮半島の歴史に詳しくないのですが、それでもなぜ韓国時代劇が受けているのでしょうか。(写真:MBC「トンイ」公式サイトより)
韓国時代劇は日本でも人気があります。日本の人たちは朝鮮半島の歴史に詳しくないのですが、それでもなぜ韓国時代劇が受けているのでしょうか。それは、どこの国にも通用する人間ドラマだからです。前編と後編の2回に分けて、韓国時代劇の面白さの秘訣をさぐっていきます。

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■時代劇制作の傾向

 韓国時代劇の発展は、実に目ざましいものがありました。一連の流れを見ると、大きく3つの傾向があったと思います。

 1つ目は、1990年代後半に生まれた『龍の涙』、『王と妃』、『女人天下』などの長編大作です。これらの作品は、朝鮮王朝の歴史にわりと忠実につくられたドラマでした。

 朝鮮王朝の正式な歴史書は「朝鮮王朝実録」です。原文は漢文で、1993年にハングル版の翻訳が完成しました。このハングル版は、1日に100ページ読み進めたとしても、読み終わるまでに4年半かかるという膨大な書物です。

 このハングル版の刊行によって、韓国の一般の人も「朝鮮王朝実録」を読むことができるようになりました。

 冒頭の3作品以前の韓国時代劇は同じネタのくり返しが多く、人気も今ひとつという印象でした。そこに、「朝鮮王朝実録」の史実を反映させた大作ドラマが立て続けに登場し、人気を博すことになったのです。その結果、時代劇の好企画が多く生まれ、人材も多く投入されるという好循環のサイクルに入ります。


■“ファクション”時代劇の隆盛

 2つ目は2000年代に入り、それまでの大作主義から離れ、歴史に埋もれていた女性や身分の低い人を取り上げた壮大な成長物語が作られたことです。

 その好例が『宮廷女官 チャングムの誓い』、『ファン・ジニ』、『トンイ』です。長今(チャングム)や『トンイ』の主人公の淑嬪(スクピン)・崔(チェ)氏は、「朝鮮王朝実録」に少しだけ出てきますが、韓国ではほとんど知られていない人物でした。そんな女性をヒロインに取り上げ、低い身分ながらも努力と創意工夫で自分の夢をかなえていく、という名作ドラマが生まれたのです。

 3つ目は、従来の流れをそのまま踏襲するのではなく、新しいタイプの時代劇が登場したことです。『王女の男』が該当しますが、歴史的事実や王朝などの設定はきちんと時代背景に合っているものの、登場人物の中に架空のキャラクターを入れることで物語を大きく動かしています。

 こうした作品はファクト(事実)とフィクション(創作)を融合させたという意味で「ファクション時代劇」と呼ばれます。

 今やファクション時代劇が隆盛となっており、『太陽を抱く月』、『テバク』もそのジャンルに入ります。この傾向は今後もしばらく続くでしょう。


■現代の視点から過去を描く

 タイムスリップを使って時代劇と現代劇をミックスさせた作品がいくつか登場しました。実はこれは、日本のドラマ『JIN-仁-』の影響なのです。あの作品が韓国でも注目され、「なるほど、こういう手法があったか」と、似た設定のドラマが韓国でも制作されるようになりました。

 ただし、このパターンのドラマはどうしても企画が似通ってしまい、あまり成果を挙げているとはいえません。あくまで一過性のものであると感じています。

 それより、『王女の男』のキム・ミンジョン監督や『太陽を抱く月』のキム・ドフン監督といった、若手・中堅クラスの有能な人たちが韓国時代劇を活性化させているという実感があります。彼らは経歴や業績に関係なく、新しい感覚で時代劇を作り、成果を挙げています。

 過去の歴史に忠実に再現されたドラマは、テンポが遅かったり難しいセリフが多くなったりして、現代人はなかなか楽しめません。

 その点、現在の韓国時代劇は現代の視点から過去を描くことが制作者たちのコンセンサスになっており、現代に生きる人たちのニーズを満たしているのです。


■葛藤を対立軸にする

 朝鮮半島の歴史は、高句麗・百済・新羅による三国時代、高麗時代、そして朝鮮王朝時代と続きます。それぞれの時代についてのドラマが制作されていて、いずれも歴史の素材を面白く使っています。

 特に、時代劇といえば何といっても518年続いた朝鮮王朝です。王の後継者をめぐり王宮内で数多くの事件が勃発しています。人間の欲望と権力志向がぶつかり合い、さまざまな葛藤が生まれていたのです。

 その葛藤をうまく対立軸として活用することが韓国時代劇は巧みです。その場合、「正義と悪」という単純な二分法ではありません。

 悪役には、そうならなければならない立場があります。たとえば、『王女の男』で主人公キム・スンユの親友でありながら、やがて裏切って対立するシン・ミョン。彼は自分の欲のためにワルになったわけではなく、家門の維持や父親の出世のためにそうせざるを得ないという事情があり、苦しんでいました。

 いわば、自分のためにスンユを裏切ったわけではないのです。そこがシン・ミョンの苦悩であり、視聴者の情に訴える部分です。この対立はなかなか解決せず、結果としていくらでも話が広がることになります。

 もちろん、面白いストーリーを紡ぎ出す優秀な脚本家が輩出している点も大きいと言えます。韓国は文を尊ぶ国であることを痛感します。感動させられるセリフが実に多いのです。また、時代劇にかぎらず、韓国ドラマの脚本家のほとんどが女性であることも興味深い事実です。


■優秀な女性脚本家が生まれる背景

 なぜ女性の脚本家が多いのでしょうか。

 その理由はいくつかありますが、まずドラマは女性の視聴者層、特に中高年の女性が主なターゲットになっており、同性の脚本に共感が持てることは確かです。

 もちろん、女性にストーリーテラーや名セリフを生み出す方が多いこともあるでしょう。対する男性の脚本家は、映画方面に進む例が多いようです。

 それから韓国には、脚本家志望者は著名な脚本家に弟子入りして5年ほど修業を積む、という徒弟制度のようなものがあります。

 韓国では伝統的に男性が家計を担うケースが圧倒的に多いのですが、無報酬に近い脚本家修業を男性が行なうことは経済的に無理があり、結果として主婦の「脚本家予備軍」が増える、という傾向になっています。

 一方、脚本を書く場合には、時代考証がどのくらい行なわれているのでしょうか。

 各テレビ局には時代考証を行なうセクションがあり、ここで歴史を歪曲していないかをチェックするシステムになっています。しかし、以前に比べると徹底していないのが現状です。その理由はファクション時代劇が増えてきたこと、そして視聴率競争が熾烈をきわめてきたことが挙げられます。時代考証を厳しくやりすぎてドラマがつまらなくなることを避けるためです。


文=康 熙奉(カン ヒボン)
出典=電子書籍『康熙奉講演録-朝鮮王朝で一番知りたい話』(収穫社)
(ロコレ提供)

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