(画像提供:wowkorea)
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日本政府による福島原発事故後の”汚染水”または”処理水”または”処理済水”の海洋放出に対する韓国の反応や反対姿勢の矛盾に対しては前回の記事で概説した。しかし、その背景には、自国の原子力・原発政策に対する不信感があるものだと指摘したい。

 ある友人は元々韓国の超一流大学で原子力工学を専攻していた。しかし、あまりの”不都合”に嫌気がさして、専攻を人文社会系に転換した。その後は統計学などの数学の能力を大いに発揮していた。

 福島原発事故の後にその友人曰く、韓国では日本以上に原子力・原発を巡っては”不都合な事実”が蔓延しているので、いつか日本以上の事故が生じると懸念しているとのことだった。その数年後、その友人は結局、米国に移民してしまった。

 現在進行中だが、脱原発政策を推進したい文大統領や韓国の政府与党と、それに反対する側との攻防が、国会を舞台に繰り広げられている。特に問題なのは、上述の友人の言う通り、韓国人の多くが周知している、小規模事故の隠蔽、資料・文書の改竄や廃棄、部品試験結果の転用などの”不都合”である。日本とは異なった背景が見えてならない。

 韓国には約10年に一度改定される米国との「原子力協定」の問題もある。原子力の推進派のみならず、現政権の一部では、使用済み核燃料の再処理や濃縮を”日本並み”以上の水準まで認めるよう米国に求めているのだ。

 恐らく日本も同様だろうが、原子力発電とは潜在的な核兵器の原料を確保して置く手段の一つである。つまり電力供給を目的の他に、核武装の可能性を捨てないと言う本心を隠しておく、あるいは安全保障の手段を隠密裏に確保して置く為の手段の一つなのだ。

 北朝鮮の核武装の影響を注視する研究者は多いが、米国が認める場合、日本や韓国なら短くは6か月ほど、長くても2年ほどで核武装が可能だと言っている。

 事実韓国では、キム・デジュン(金大中)政権下でもIAEA(国際原子力機関)に未申告の、つまりNPT(核不拡散条約)違反のウラン濃縮を犯した事件があった。末端研究員と機関の錯誤と言う事で処理され、あまり問題化はされなかった。

 韓国ドラマ「IRIS」などでもお馴染みだが、1979年のパク・ジョンヒ(朴正熙)大統領の暗殺の背景には、核武装を目指した為に、米国が研究者ごと抹殺したと言う陰謀説も、韓国人の間では根強く信じられている。

 日本の半島統治時代、京城府の元町(現在のソウル龍山区)には日本から届いた雑誌「子供の科学」が大好きだった少年がいた。後ほどソウル大学で化学工学を専攻し、米国で世界的な核物理学者になったイ・フィソ(李輝昭)博士だ。1977年、彼の交通事故死が、朴正熙大統領の「核開発計画」への協力と関係があるとの陰謀説は韓国でベストセラー小説「槿の花が咲きました」のモチーフとなり、映画化もされた。

 原発維持派・推進派にとっては、脱原発とは、潜在的な核武装の可能性さえも放棄すると言う、国防・安全保障政策の大転換なのだ。

 北朝鮮の核開発のための核実験や、環境への影響や安全基準を無視した様々な行為について実に宥和的である現政権。一方、また韓米原子力協定では濃縮を認めさせようとする現政権。国内では脱原発政策を推進しようとする現政権。こうして考えてみると、今の韓国政権の姿勢はチグハグだ。しばしば日本に対して発する「真正性」が歪んで見えてしまうのだ。

 いずれにせよ、その一貫性の無さは”不都合な事実”によって彩られており、電力供給の為に必要悪だと考える韓国人の多くにも、嫌悪されている所である。そして、そうした同じ基準で、日本の原子力政策も不信の目で見られているかもしれない。

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